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悉皆屋-着物クリニック-
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■色に関する相談


1「いつまでも赤い花」
 患者:附下
 保護者:70代主婦

症状:初めて自分で買った着物を今でも大切に持っていますが、さすがに今では花が赤過ぎて年齢に不相応です。行き付けの呉服屋さんに相談したら、一旦ほどいて、上からネズミ色をかけて地味にしましょうと言ってくれたのでお願いしましたが、少しも地味になった気がしません。どうしたら着られるようになりのでしょうか。

※この画像はパソコンで処理しています

花柄だけの部分的な彩色が必要です。
ねずみ色をかけることによって、純粋に柄の赤部分だけをとってみれば地味になっているのでしょうが、周囲の地色がねずみになったために余計赤が際立った印象を与えてしまいます。こういった場合は柄だけを彩色した方が効果的です。同系の濃い色にしかできませんので、レンガ色など茶系になります。柄の彩色だけなら仕立てあがりのままでも加工できます。また金粉をいれることによっても赤みを押さえることができます。
黒留袖などで裾模様のバックが広く朱色になっているようなものがありますが、それなどは場面が広いために彩色してもむらつく恐れがあります。こういったものは金粉を入れた方が赤みも押さわり、さらに豪華になります。


2「飽きたお気に入り」
 患者:附下
 保護者:50代会社役員

症状:若いころ作ったピンクの着物が好きで何度も着ましたが、さすがに色も褪せてきたようですし、私自身飽きてきました。それになんといっても派手です。薄いグリーンにでもしたいのですが、できますか。

できません。染料は透明度のあるもので、元の地色の影響を受けます。ペンキのように下の色を完全に隠すことはできません。
ですから元の色により染まる色、染まらない色があります。ここで美術の時間に習った12色環表を思い出してもらいたいのですが、ピンクとグリーンというのは補色の関係で全く逆の色相です。薄いピンクを濃いグリーンにするならまだ可能ですが、指定の色は濃さがほとんど変わりません。これは不可能です。ピンクからなら茶色や赤紫に染めることができます。
しかしどうしてもグリーンにしたいということでしたら、模様部分をゴムで伏せて保護し、地色を脱色して染め直します。当然費用は高くつきます。


3「もらい物のアンティーク」
 患者:黒留袖
 保護者:30代新妻

症状:知り合いから古い留袖をいただきました。全体にぼやけたような色使いですし、両褄というのですか、背中部分に全く柄がありません。せっかくいただいた物なので、手を加えて良くなるものならなんとかして着てみたいと思います。一度見てみてください。

これはこれでアンティークとして価値があると思いましたので、加工を思いとどまるように話しましたが、どうしても今風にしたいとおっしゃるのでしかたなく引き受けることにしました。
まずぼやけたような色は部分的に彩色直しをすることでかなりはっきりします。それと背中部分にも柄を描き足しました。黒地には染料を塗っても色が出ないので、顔料というポスターカラーのようなものを使います。若干固くなります。特に下が濃い色の場合は何度も塗り重ねる必要があり、かなりごわついてしまいます
手で揉んでやればそこそこ柔らかくなりますが、生地が弱い場合、波打ったようになってしまいますので、注意が必要です。


4「茶色くなった黒留袖」
 患者:黒留袖
 保護者:60代女性

症状:嫁入りに持ってきた古い留袖があります。娘に譲ってやろうと思って出してみたら、赤茶けたような色になっています。それも何箇所か特に変色のひどい部分があって、縫い目を境に隣り合った部分とは全然色が違ってしまっています。染めが悪いのでしょうか。うえから黒い色を塗って隠してもらえますか。

三度黒と呼ばれる染め方で、決して悪い染めではありません。
むしろ黒染めの本格派です。しかし経時変化といって時間とともに変色する難点があります。一旦ほどいた後、染め直すことができます。柄部分はそまらないように保護できます。しかし本件のお客さまは、ほどかずに変色部分だけ筆かなにかで塗って欲しいと言っておられましたが、これは不可能です。
理由としては、数ある色の中で、黒という色が一番合わせにくい色だということ。それと、仕立てたままでは十分な後処理ができず、色泣き(色が定着せず、他の部分を汚してしまうこと)を止められないということです


5「変わらない地色」
 患者: 訪問着
 保護者:40代営業職

症状:出入りの呉服屋さんから吹雪加工というものを教えてもらいました。手持ちの着物に吹雪のような細かい斑点を好きな色でいれてあげると言われました。丁度着なくなったピンク色の訪問着があったので、濃紺の吹雪を入れたらピンクと混ざって紫っぽくなるだろうと思って加工をお願いしましたが、出来上がりを見てみると想像と全然違って余計きつい感じになりました。どうすればよかったのでしょうか。

一口に吹雪と言っても主に三種類の加工方があり、それぞれ出来上がりの感じは全然違います。

  1. 樹脂吹雪:エアガンで霧状の顔料を吹き付けます。下図左の感じです。柄をマスキングすれば柄の際までいれることができますし、マスキングせずにぼかすこともできます。粒の大きさはあまり自由になりません。霧状の顔料ですから、あまり大きくするとにじんだようになって見苦しくなります。

  2. 捺染吹雪:これも下図左の雰囲気で型染めと思ってもらえれば結構です。吹雪の大きさや形は思うような型があれば自由になりますが、輪郭がはっきりしているために、むっくりした味わいに欠けます。基本的にぼかすことはできません。本件はこの加工でした。1、2共に地色は染まることなく、あくまでも元の地色のなかに吹雪が入るわけですから、色の印象はあまり大きくかわりません

  3. ロウケツ吹雪:まず全体に溶かした鑞を霧状にして吹き付けます。刷毛で地色を染め最後に鑞を落とします。すると新たに染めた色が地色になり、鑞の乗った部分が染まらないために、もとの地色が吹雪の色として残ります。ですから下図右の上がりになります。粒の大きさや詰め具合にそこそこ自由がききます。輪郭が程よくぼやけるのでむっくりした味わいがあります。本件の場合はこの染め方にするべきでした。


 

A.の吹雪は地色の印象があまり変わらないので、イメージを変えずに汚れや生地難を隠すのに向きます。地色を地味にしようとして失敗する例をよく見ます。
B.の吹雪はイメージを変えることができるので、イメージを変えたいときに向きます。吹雪なしではシミや際付きの出る恐れのあるときによく使われます。
 

加工法 地色 ぼかし 微調整 特長
樹脂吹雪 不変 濃い地に薄色でも乗る
裾だけ等、平に置ける部分だけなら仕立てたまま加工可
捺染吹雪 不変 不可*1 不可 型を使うので、個性的なものを選択できる
抜色吹雪 不変 不可 不可 濃い地に吹雪を入れる
吹雪入りシゴキ 変わる 不可 不可 吹雪と地色を一度に染められる
ロウ吹雪引染 変わる 高級感があり、ぼかしに向く
 

*1 柄の周囲まで大きく伏せておいて吹雪をいれ、後に柄のまわりだけ手描きで吹雪を描いていく方法でぼかしにする業者がある。



着物用語解説、参考WEBサイトの情報を提供しています。
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関連用語解説

黒留袖
両褄
顔料
吹雪


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