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きものは畳紙(たとうし)で包みますか?
ゆかたをクリーニングに出すと、ビニールで包装して渡してくれます。言うまでもなくそのままタンスにしまいこむのは論外です。通気性がないためにしっけやすく、カビの原因になります。
では、小売店や丸洗いに出したときにつけてくれる畳紙(文庫)はどうでしょう。雲竜紙のような内包みがあり、いかにも通気性のよさそうな材質のものは比較的安心です。しかし安価なものになると、内包みがなく、素材も厚めの模造紙のようなものがあります。これらはあまり通気性がよくないために、かえって湿気がこもる恐れがあります。
タンスの抽斗に大きめの風呂敷を敷いて、くるむように着物を裸でしまっておくのも一考です。
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防虫剤を入れますか?
ウールや綿と違って、精練された絹は虫喰いの心配はありません。しかし、中には絹の他にウールの着物や綿の浴衣を一緒にタンスに入れている方もいらっしゃるでしょう。となるとやはり防虫剤は入れておいたほうが安心です。
その際ひとつ注意しておかなければならないのは、種類の違う防虫剤を混ぜて使わないことです。わざわざ2種類の防虫剤を買うことはないでしょうが、前の防虫剤がなくなりそうなときに、新しく別のものを入れてしまうというのはありそうなことです。
なぜ混ぜて使ってはいけないかと言うと、有害なガスが発生し、金加工のバインダー(接着剤)が溶出し、金がベタついたり、畳紙についているのぞき窓のセロハンが溶けてしまったりします。
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タンスはどこに置きますか?
タンスの置き場所にも注意が必要です。いくら桐のタンスにいれても、部屋そのものがじめじめしていてはどうしようもありません。
きものの敵は湿気だけではありません。窒素酸化物や二酸化硫黄もガスやけと呼ばれる変色の原因になります。具体的には自動車の排気ガスや石油ストーブの燃焼ガスなどがそれに当たります。道路沿いで風通しの悪い部屋や、日常的にストーブを使う気密性の高い部屋などはタンスを置かないほうが賢明です。
そういった意味で東北や北海道で、ガスやけの事故がよくあります。
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その他保管の注意点は?
なんといっても、虫干しは事故防止の王道です。前述のカビやガスやけは虫干しで防止できます。そこそこ気温が高く、空気が乾燥する秋口は絶好の機会です。是非虫干しを励行してください。
タンスの抽斗を開けておくだけでも効果はありますが、広げて畳むという行為が事故の早期発見、早期治療につながります。またタンスにしまいっぱなしというのでは、着物もかわいそうです。
空気の入れ替えのために抽斗を開けるときは、一度に全部開けてしまわないで、一段置きに2日に分けてやったほうが効果的です。
以前奇妙な変色事故に出くわしたことがあります。畳みジワ防止の為に当て紙をいれることがよくありますが、その紙のあたっている部分が変色しています。縫い目やシワなど、周囲より高くなっているところの変色がひどいことからも、当て紙が原因であることは疑う余地がありません。
どうやら湿気のために、当て紙に含まれた漂白剤が溶出したことによる事故のようです。
こう書くと「どんな紙を入れたらよいのか」という質問がきそうですが、考えてみてください。紙の漂白剤が溶け出すほど湿気を含まそうと思えば、触ってみてじっとりするぐらいでなければなりません。普通そこまで湿らせるのは難しいと思います。
毛糸製品と重ねて保管するのもよくありません。
ハンガーにかけて洋服タンスにしまっておいた着物が変色しました。犯人は横に吊ってあった毛糸のセーターでした。毛糸は多少硫黄成分を含むために、これが変色の原因になりました。
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着用時の注意は?
汚さないこと。
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着用後の後始末は?
すぐにタンスにしまわずに、一晩吊っておいて熱と湿気を飛ばします。あまり長く吊っておくと、日にやけてしまったり、八掛(裾廻し、裏地)がたるんできたりします。数時間から一晩、長くてもせいぜい丸1日が限度でしょう。
着用ジワが気になるときは、当て布をしてアイロンをかけます。シワを伸ばそうとするあまり、力まかせにグリグリ押さえつけるのは、風合いを損ねるばかりか、そこだけテカリが出てしまう恐れもあります。
アイロンを当てるときはシミがないかよく注意して見ておいてください。たんぱく質のシミ(食べこぼしや血など)は熱が加わると固まってしまい、あとからしみ抜きに出しても取れません。
不幸にも汚してしまった場合は、自分で取ろうとせずに、すぐにしみ抜きに出すことです。市販のしみ抜き剤は決して使ってはいけません。その際、なんのシミかわかっておれば伝えておくことです。汚れの種類によって使う薬剤が違ってくるので、仕事がやりやすくなります。
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汚したときの応急処置
すぐにしみ抜きに出すべきことは前項でも述べましたが、それでも訪問先に着く前に汚したとか、なんらかの理由で応急処置をとらなければならないこともあるでしょう。
しみ抜きの基本は着物に付いたシミを他へ移動させることです。
汚れ部分を濡らして、乾いたタオルで水分と一緒に汚れを吸い取るようにします。最後は周囲を固く絞ったタオルでぼかすようにしておかないと輪ジミ(際付きのある丸っこいシミ)になります。
そしてやはり専門の業者に出してきちんと処置をしてもらうべきでしょう。
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応急処置のタブー
多少応急処置がまずくてもすぐに専門の業者に出せばどうにかしてくれるものですが、それでも絶対にしてはならないことがあります。
1)こすらないこと
タイルや鉄板と違い、絹は大変摩擦に弱い素材です。中でも濡らしてこするというのは絶対に禁物です。絹の表面が毛羽立ち、光の乱反射によってそこが白っぽく見えます。これをスレと呼びますが、多少のスレはスレ直し液を使って繊維を一方に撫で付けることによって直すことができますが、あまりひどいものになるとどうしようもありません。
2)熱を加えないこと
食べこぼしや血など、タンパク質の汚れは新しいものなら石鹸水で比較的簡単に落とすことができますが、一旦熱を加えてしまうと固着して落とすことが出来なくなります。
生地に卵の白身を付けたところを想像してください。生卵は水で洗えば簡単に落ちます。しかし、それに熱を加えてしまったら固まってしまって水でも揮発でも落ちないことは想像に難くないと思います。
3)濡れタオルで叩かないこと
一番やってしまいそうな失敗です。前項でも述べたようにしみ抜きの基本は汚れを他に移動させることです。濡れタオルで叩くと水分と一緒に汚れが繊維の奥に移動してしまい、余計にしみが落ちにくくなってしまいます。
4)しみ抜き剤を使わないこと
しみ抜きは非常にデリケートな作業で、しみの正体がわからないときは水から始めて少しずつ強い薬剤を試していきます。いきなり強い薬剤を使うとそれが後々悪影響を及ぼすからです。市販のしみ抜き剤はしみの種類を鑑みない強いものなものなので、後でちゃんとしたしみ抜きができなくなります。
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丸洗いに出しますか?
丸洗いに関しては様々の誤解や思い違いがあるようです。
まず、その呼称に関してですが、「クリーニング」「丸洗い」「京洗い」すべてやっていることは同じことです。ドライクリーニングと同じように揮発溶剤で汚れを洗い流すことをします。
強いて違いを上げれば、業者によってしみ抜きをパッケージ化したものを「○○洗い」と称してより丁寧なメンテナンスを売りにしているものがあります。呼称に惑わされずに、どのような加工をしてくれるのか確認しましょう。
普通は揮発で洗ってアイロン仕上げをします。この仕上げの上手い下手が評価を左右します。「丸洗いに出したらぺったんこになって返ってきた」という苦情は仕上げの未熟によるものです。「○○洗い」はよいが「△△洗い」は駄目だというような評価は乱暴です。これも呼称によらず扱い店一軒一軒を評価しましょう。
しみの落ち具合は、機械的な作業のみで終わっているか、しみをひとつひとつ確認しながらしみ抜きをしているかの違いです。これも扱い店によって呼称も価格も違うはずですから、どのような加工をして価格がいくらなのか、内容を吟味して加工に出しましょう。
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