紋を替えても、袖や胸に柄がありませんから、 訪問着として着用するには無理があります。 最低でも出袖(右袖の背中側)と胸に柄を描き足す必要があります。 そのついでに肩(右肩背)にも柄を描き、それを背紋の位置まで伸ばしてきて 紋の上に柄を描いて隠してしまうという手があります。
それはそれで置いておいて、本題の刺繍です。 紋を入れ替えたいという相談はよくありますが、 書いたり消したり、そう簡単にできるものではありません。 おっしゃるように、刺繍というのはいい手です。
縫い紋で、別の紋をということですと、 線で表現するマツイ縫いなどは不向きで、 面で縫いつぶす日向のスガ縫いでないと元の紋が隠せません。 それも、新しい紋が元の紋を完全に覆うとは考えづらく、 図柄の隙間から元の紋が覗いてしまうでしょう。 ですから、縫い紋を入れるにしても 元の上絵(黒く線描きされた輪郭線)を落として、 白抜きになった部分も塗りつぶさないといけません。 それにしても、元紋が外側にはみ出たら、 その部分はごまかすことができません。
花紋、或いは洒落紋というものがあります。 定紋(家紋)ではなくて、紋のように丸く図案化された花柄と思ってください。 貴子さんはひょっとしてこっちの方を思っておられたでしょうか。 これは定紋と組み合わせて入れられることもよくありますが、 ほとんどは色無地を洒落着っぽく着用するために注文されます。 まれに軽めの附下や振袖にも入れられます。 格式ある訪問着にはやや不向き、色留袖には全くお勧めできません。
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